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Cisco Packet Tracerを使ってネットワークを学習しよう! -2-
Packet Tracer紹介の2回目です。今回は、CCNA試験範囲の中で、多くの方にとって理解しにくい技術の一つだと思われるSTPについて、Packet Tracerで動作を確認してみたいと思います。
なお、本記事はIPアドレス設定やスタティックルート設定など、Cisco IOSの一般的なコマンドを理解している方を対象に執筆しています。コマンド等は割愛、または記載する場合でも省略形にしますので、あらかじめご承知ください。
STPはレイヤ2ネットワークにおける冗長化技術です。レイヤ2の経路を冗長化すると、データが永続的にループし続ける「L2ループ」が発生し、ネットワークとして機能しません。
STPを有効にすることで、物理的に複数経路を持ったネットワークを論理的には単一経路として扱うことが出来るため、L2ループを防止することが可能になります。
STPはCCNA試験の範囲でも理解が難しい技術のため、どのCCNA本でも比較的丁寧に解説していると思います。STPの詳しい説明や動作についてはそれらの本でご確認いただくとして、せっかくPacket Tracerがありますので、Packet Tracerを使ってSTPの動作を確認してみましょう。
最初にネットワーク構成図を確認してみましょう。今回は以下の様なネットワークを作成します。
第1回のネットワークを踏襲して、シアトル拠点、ニューヨーク拠点の2つの形にしましたが、今回はSTPの動作を確認するのが目的ですので、設定するのはスイッチのみです。
①スイッチを配置する
まず、3台のスイッチを図の様に配置します。今回、スイッチは以下の機種を使用しました。
・スイッチ:2960-24TT
スイッチは他の機種でも構いませんが、この記事ではSTPの説明を簡略化するため、スイッチ間のリンク速度は全て同じであることを前提にしていますので、その点はご注意ください。また、ケーブルは図の灰色のラインに沿って接続しますが、今は接続しないでください。
図ではルータも配置していますが、これはネットワークの出入口を表現するために配置したもので、今回は使用しません。ですから、ルータは配置しなくても問題ありません。
②各スイッチのMACアドレスを調べる
スイッチを配置したら、各スイッチのMACアドレスを調べます。ユーザモードまたは特権モードで[show version]コマンドを実行し、表示の中から「Base ethernet MAC Address」行を確認してください。
〇MACアドレスの確認
S1#sh version
…(略)…
Base ethernet MAC Address : XX:XX:XX:XX:XX:XX ←これがMACアドレスです。
…(略)…
MACアドレスを確認し、メモ帳などに控えましょう。3台全て調べたら比較します。
私が試した時は、最小のMACアドレスを持つのはS1スイッチ、2番目に小さいMACアドレスを持つのはS3スイッチ、最大のMACアドレスを持つのはS2スイッチでした。
〇図における各スイッチのMACアドレス
S1:00:01:63:DB:8E:61
S2:00:E0:F9:39:11:23
S3:00:D0:D3:3A:74:44
今回はブリッジプライオリティを設定しないため、MACアドレスが最小のS1スイッチがルートブリッジ(RB)になります。
③各スイッチの管理VLANにIPアドレスを設定する
次に、各スイッチの管理VLANにIPアドレスを設定します。
〇IPアドレスの設定
S1>en
S1#conf t
S1(config)#int vlan 1
S1(config-if)#ip add 192.168.1.1 255.255.255.0
S1(config-if)#no shut
設定を行ったら[show run]コマンドで設定を確認してください。3台すべてに設定を行います。
④各スイッチをケーブルで接続する
いよいよ各スイッチをクロスケーブルで接続します。接続先のポートはどれでもよいのですが、今回は以下の様に接続しました。
ケーブル接続直後のポートは全てオレンジ色ですが、30秒程度待つと…
下図の様に、1つのポートを除いてポートの色が緑色(通信可能)になると思います。この状態になったら、各スイッチで[Ping]コマンドを使用し、疎通確認を行ってください。各スイッチ間で通信が可能になっていると思います。
STPでは、物理的にループしている経路を論理的に1つの経路にするため、各接続ポートをルートポート(RP)、指定ポート(DP)、非指定ポート(NDP)の3種類に選出します。ルートポートと指定ポートは通信可能ですが、非指定ポートはブロッキングされます。
今回の場合、ルートポート、指定ポート、非指定ポートは下図の様になりました。非指定ポートがあるリンク(S2のfa0/4ーS3のfa0/6)間のみ通信はブロックされ※1、それ以外のリンクでは通信が可能になっていることがわかります。
※1:S2-S3間の通信はS1を経由して運ばれます。
STPにおけるルートポート、指定ポート、非指定ポートの選出方法については割愛しますが、今回のケースでは、3つのスイッチの中でMACアドレスが最も大きいのはS2ですので、S2でルートブリッジから(パスコスト的に)一番遠いfa0/4が非指定ポートに選出されます。
④STPのステータスを確認する
各スイッチでSTPのステータスを確認してみましょう。S2のfa0/4がブロッキングされていることが確認できます。
〇S1のSTPステータス
〇S2のSTPステータス
〇S3のSTPステータス
今回は簡略化のため各リンクの速度は全て同じにしていますが、各リンクの速度を変えたり、さらに複雑なネットワーク構成にしてもよいと思います。Packet Tracerならネットワーク機器を簡単に増やせますので、ぜひ色々と試してみて下さい。
せっかくなので、ここで1つ実験をしてみましょう。現在のネットワーク図を確認します。
ご覧の様に、現在はスイッチS2のfa0/4が非指定ポート(NDP)としてブロッキングされています。S2-S3間の通信はS1を経由して行われます。
さて、ここでS1-S3間の通信がダウンしたらどうなるでしょうか。STPの仕組みでは、その場合は非指定ポートが指定ポートになり、一時的な通信ダウンは発生するものの通信は引き続き行える様になるはずです。それを確認してみましょう。
①スイッチS1-S3間の通信をダウンさせる
それでは、S1-S3間の通信をダウンさせましょう。今回はS3のfa0/5をshutdownすることで、通信不能状態を作ります。
〇スイッチS3のfa0/5をshutdown
S3>en
S3#conf t
S3(config)#int fa0/5
S3(config-if)#shut
S3のfa0/5をshutdownすると、下図の様になります。S3のfa0/5が赤色に変化したことがわかります。数十秒ほど待機します。
すると、以下の様にステータスが変化しました。S2のfa0/4のステータスがオレンジ(ブロッキング)から緑色(通信可能)に変わっています。
実際にステータスを確認してみましょう。スイッチS2で[sh sp]コマンドを実行します。
ご覧の様に、fa0/4のステータスがFWD(Forwarding:通信可能)になっています。先ほど確認した際のfa0/4のステータスはBLK(Blocking)でしたが、S1-S3間がリンクダウンしたことで、STPの仕組みがfa0/4を非指定ポートから指定ポートに遷移させ、通信経路を維持することが確認できました。
最後に、Packet Tracerの便利機能を2つ紹介します。
〇3-1. 時間の早送り
まず1つ目が「時間の早送り」です。ネットワーク機器を接続した際やSTPのポート決定など、ネットワークが使えるまで数十秒程度待つ場合があります。
待つのが面倒な場合は、Packet Tracerの画面左下にある「早送りボタン(▶▶アイコン)」を押してください。ボタンを1回押すごとに30秒経過します。時間の経過は早送りボタンの左にあるTime表示で確認することが出来ます。
〇3-2. 機器設定のリセット
次に、機器設定のリセットです。例えば、設定を終了したネットワークをもう一度最初から設定したい場合に、初期状態のファイルがあればよいのですが、上書きしてしまったなどの理由で初期状態のファイルが存在しない場合もあると思います。
その場合は、Packet Tracerの画面左下にある「リセットボタン(▶▶アイコンの左隣)」を押してください。「Reset Network?」とネットワークをリセットしてよいか確認が出ますので、「Yes」を選択してください。ネットワーク設定がリセットされます。
この機能ですが、正確には「Startup Configに保存していない設定は消える」ですので、[copy run start]を行った場合は、最後に[copy run start]を実施した場面に戻ります。その点はご注意ください。
また、PCやLaptopなどのネットワーク機器以外のネットワーク設定はリセットされません。
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